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東京地方裁判所 昭和35年(合わ)194号 判決 1960年7月29日

本籍

徳島県名西郡神山町下分字鍋岩三十四番地

住居

東京都台東区浅草公園六区一号の九

マヤバレー「エデン」方ボーイ

片山俊司

昭和十六年十二月二十八日生

右の者に対する住居侵入、強盗致傷被告事件について、当裁判所は検察官佐藤忠雄出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役三年に処する。

ただし本裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となる事実)

斎藤泰男が、強盗をしようと企て昭和三十五年五月二日午前五時十分頃、同年三月三日頃から四月十日頃迄の間牛乳配達員として住み込んでいた東京都世田谷区玉川仲町一丁目四十五番地雪印牛乳販売店小沢孝年方表ガラス戸をあけて屋内に侵入し、同家四畳半の間において就寝していた小沢孝和(二十九才)および同人の妻ミネ子(二十六才)の両名に対し刄渡り約二十センチメートルの肉切庖丁(昭和三十五年証第一〇三七号の一)を突き付け、「騒ぐな、金を出せ、金庫をあけろ」などと脅迫して同人等の反抗を抑圧したうえ、右孝和所有の現金二万円位(千円札で二十枚位)を強奪し、その直後逃走しようとして表入口を飛び出した際右犯行を知つてかけつけた鳶職金子豊(三十六才)から発見追跡され、同家の東方約百米の路上で逮捕されようとするや、これを免れるため前記肉切庖丁を握つた右手で同人の手を振り払い、よつて同人に対し加療約一カ月を要する左小指、環指および中指切創の傷害を負わせたのであるが、

被告人は、右斎藤泰男からこの犯行に先立ちその情を打明けられ助力方を要求されるや、同人の犯行を幇助する意思で、かつ同人に命ぜられるまま、同日午前二時頃表記被告人の住居において、右斎藤が変装するのに用いるマフラー(昭和三五年証第一〇三七号の三)、色眼鏡および同人が犯行時に着用する手袋一双(同証号の四)などをさがし出して同人に手渡し、また同日右犯行の直前前記小沢孝年方店舗附近において同所まで持参した前記肉切庖丁を右斎藤に手渡し、続いて右斎藤の後に従つて右小沢孝年方店舗の表ガラス戸をあけて屋内に侵入して同人の犯行の意気を助けさらに持参したペンチで同家店舗内の電話線を切断し、もつて右斎藤の前記犯行を容易ならしめてこれを幇助したものである。

(証拠の標目)

判示事実は

一、被告人の当公判廷における供述

一、被告人の当裁判所に対する上申書

一、被告人の検察官および司法警察員に対する供述調書各二通

一、斎藤泰男の司法警察員に対する供述調書三通

一、小沢孝年、小沢ミネ子、金子豊(二通)、谷川善春および高沢字見の司法警察員に対する各供述調書

一、医師森山義雄作成の診断書二通

一、司法警察員藤沼騏一作成の実況見分調書

一、司法警察員渡辺金平作成の写真撮影に関する報告書図面(三葉および写真二十枚添付)

一、押収してある肉切庖丁一丁(昭和三五年証第一〇三七号の一)ソフト帽子一個(同証号の二)、マフラー一枚(同証号の三)および手袋一双(同証号の四)の存在

を総合してこれを認める。

なお、検察官が本件犯行を斎藤泰男との共同正犯と主張しているのに対し、判示のとおりこれを幇助犯と認定したについては、被告人は、判示のように電話線を切断したのち、同家の裏口に物音がしたため斎藤に見張りをしろと命ぜられて同家表口に飛び出したところ、人の来るのを見て、そのまま逃走したことが認められるほか、とつた金は山分けにすると当初斎藤からいわれたものの、犯行後喫茶店でかいごうした際、斎藤から五千円しかとれなかつたといわれて僅かに二千円を分与されたに過ぎないのみならず、その際さらに斎藤から命ぜられて喫茶店における二人の飲食代金約八百円を右の二千円のうちから支払わされており、結局、終始斎藤に頤使されどおしであつた事情をも考慮し、幇助犯と認定するのを正当と判断したことを附言する。

(法令の適用)

被告人の判示行為中住居侵入の点は刑法第六十条、第百三十条罰金等臨時措置法第二条第一項本文、第三条第一項第一号に、強盗致傷幇助の点は刑法第二百四十条前段第六十二条第一項に該当するところ、住居侵入と強盗致傷幇助は一個の行為にして数個の罪名に触れる場合であるから同法第五十四条第一項前段、第十条刑法施行法第三条第三項により重い強盗致傷の罪について定められた刑に従つて処断し、所定刑中有期懲役刑を選択し、刑法第六十三条、第六十八条第三号、第六十九条により法律上の減軽をしたうえ、なお情状憫諒すべきものがあるので同法第六十六条、第六十七条、第六十八条第三号、第七十一条、第七十二条により酌量減軽した刑期の範囲内で処断することとする。そこで情状について考えるに、被告人は少年であり、本件犯行の前後の事情をみれば、年長の斎藤泰男のそそのかすままにその命に服して同人の犯行を助けたことが明らかであり、被告人がこれを拒み得なかつたことは遺憾ではあるが、一面考慮すべき事情も酌みとれない訳でもらく、改悛の情も認められ、また実兄も被告人をひきとつて十分に保護監督し自立させる道を講ずることを証人として陳述し誓つているので、特に刑の執行を猶予するを相当と認め、少年法第五十二条第三項により被告人を懲役三年に処し、刑法第二十五条第一項により被告人を懲役三年に処し、刑法第二十五条第一項により本裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用は被告人が貧困のためこれを納付できないことが明らかであるから刑事訴訟法第百八十一条第一項但書により被告人に全部負担させないこととする。

よつて主文のとおり判決する。

昭和三十五年七月二十九日

東京地方裁判所刑事第三部

裁判長裁判官 安村和雄

裁判官 沼尻芳孝

裁判官 香城敏麿

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